参考程度にお読み下さい
はじめに
化膿性汗腺炎(HS)とは、自然免疫の活性化による慢性・炎症性・再発性・消耗性の皮膚毛包性疾患です。 HSは、主に腋窩や鼠径部などの皮下組織にある汗腺や毛包が詰まって起こります。 HSは、患者のQOL(生活の質)を低下させるだけでなく、心臓病や糖尿病などの全身的な合併症も引き起こす可能性があります。
最近、オランダの研究者がHS患者を対象に行った調査で、驚くべき事実が明らかになりました。それは、HS患者は、一般人に比べて約4倍もの確率で線維筋痛症になる可能性が高いということです。
線維筋痛症とは何か?
線維筋痛症とは、全身の筋肉や関節に慢性的な広範囲な疼痛を伴う神経系の障害です。 線維筋痛症は、原因不明で治療法も確立されていません。 線維筋痛症の患者は、以下のような多彩な症状に悩まされます。
- 睡眠障害:入眠困難や睡眠中断、深い睡眠が得られないことで、日中の倦怠感や集中力低下を引き起こします。
- 疲労感:体力や気力が低下し、日常生活に支障をきたします。
- 頭痛:偏頭痛や頚部頭痛などの慢性的な頭痛が起こります。頭痛は、睡眠障害やストレス、筋肉の緊張などによって悪化することがあります。
- 認知障害:記憶力や注意力、判断力などの認知機能が低下します。これは「ファイブロフォグ」と呼ばれる現象です。認知障害は、日常生活や仕事に影響を与えることがあります。
- 抑うつ:痛みや疲労感、生活の制限などによって、気分が落ち込んだり、自己肯定感が低下したりします。抑うつは、線維筋痛症の患者の約3分の1に見られると言われています。
- 不安:不安感や恐怖感、パニック発作などの不安障害が起こります。不安は、線維筋痛症の患者の約4分の1に見られると言われています。
- 過敏性腸症候群:腹痛や下痢、便秘などの消化器系の不快な症状が起こります。過敏性腸症候群は、食事やストレスなどによって悪化することがあります。
- 過敏性膀胱:頻尿や尿意切迫感、排尿時の痛みなどの泌尿器系の不快な症状が起こります。過敏性膀胱は、飲水量や気温などによって悪化することがあります。
- 月経困難:月経前後におこる腹部や腰部の痛みや不快感が強くなります。月経困難は、ホルモンバランスの乱れやストレスなどによって悪化することがあります。
- 顎関節障害:顎関節(顎と頭蓋骨をつなぐ関節)におこる炎症や筋肉の異常によって、顎の動きに制限や痛みが起こります。顎関節障害は、咬み合わせやストレスなどによって悪化することがあります。
HSと線維筋痛症の関係は?
オランダのErasmus University Medical CenterのMadelon P. Vonkらは、HS患者と一般人を対象に、化膿性汗腺評価尺度(HSS)と広範囲な体力評価尺度(WPI)を用いて、HSと線維筋痛症の関係を調べたところ、HS患者は一般人に比べて約4倍もの確率で線維筋痛症になる可能性が高いことが判明しました。この驚くべき発見は、JAMA Dermatologyという医学雑誌に掲載された論文¹に基づいています。
研究の方法と結果
研究者たちは、2020年2月から11月までにオランダのErasmus University Medical Centerを受診した18歳以上のHS患者100人と、年齢・性別をマッチングさせた疼痛関連疾患を持たない一般人100人を対象にしました。両群に対して、化膿性汗腺評価尺度(HSS)と広範囲な体力評価尺度(WPI)を用いて、HSの重症度と線維筋痛症の診断基準を評価しました。
その結果、以下のことが分かりました。
- HS患者の13人(13%)が線維筋痛症の診断基準を満たしていましたが、一般人では4人(4%)しか満たしていませんでした。この差は統計的に有意でした(P=0.02)。
- HS患者では、HSの重症度スコア(HSS)や疼痛スコアが高いほど、線維筋痛症になる可能性が高くなりました。これらのスコアは、線維筋痛症と有意に相関していました(P=0.01およびP=0.002)。
- HS患者では、関節リウマチやうつ病の既往も、線維筋痛症と有意に関連していました(P<0.05およびP<0.001)。
研究の意義と考察
この研究は、HS患者が一般人に比べて、約4倍もの確率で全身性の慢性的な広範囲な筋肉や関節の疼痛を伴う神経系の障害である線維筋痛症になる可能性が高いことを示しました。これは、HS患者のQOLをさらに低下させる要因となります。
この関係は、HSと線維筋痛症で観察される自然免疫系や神経系の異常によるものだと考えられます。HSでは、皮膚や血液中でインターロイキン1βやインターロイキン17Aなどのサイトカインが上昇し、慢性的な皮膚毛包性の感染・化膿・排出・癒着・硬化・皮下組織の破壊などを引き起こします。これらのサイトカインは、神経系にも影響を与え、痛みや炎症を増幅させます。また、HSでは、ストレスや抑うつなどの心理的な要因も、自然免疫系や神経系に悪影響を及ぼします。
一方、線維筋痛症では、セロトニンやノルアドレナリンなどの神経伝達物質のバランスが崩れ、中枢神経系が過敏になります。これにより、本来は痛みを感じないような刺激に対しても、強い痛みを感じるようになります。この現象を過敏性疼痛(allodynia)と呼びます。また、線維筋痛症では、自然免疫系も異常に活性化し、サイトカインの分泌が増加します。これにより、全身の筋肉や関節に慢性的な広範囲な炎症が起こります。
このように、HSと線維筋痛症では、自然免疫系や神経系の異常が共通して見られます。これらの異常は、互いに影響し合って悪化させる可能性があります。したがって、HS患者は、一般人に比べて約4倍もの確率で全身性の慢性的な広範囲な筋肉や関節の疼痛を伴う神経系の障害である線維筋痛症になる可能性が高いことを示しました。これは、HS患者にとって重要な知見です。なぜなら、線維筋痛症は、HSと同様に、診断や治療が困難で、多くの医師や患者に認知されていない疾患だからです。
HS患者はどうすればいいか?
この研究の結果を受けて、HS患者は以下のことに注意する必要があります。
- HSの重症度や疼痛スコアが高い場合は、特に線維筋痛症の可能性が高いので、自分の体の変化に敏感になること。全身の筋肉や関節に慢性的な広範囲な疼痛を感じたり、睡眠障害や疲労感などの他の症状がある場合は、医師に相談すること。
- HSと同時に関節リウマチやうつ病などの他の疾患を持っている場合は、それらの治療も適切に行うこと。これらの疾患は、HSや線維筋痛症と相互作用して悪化させる可能性があるからです。
- HSや線維筋痛症は、ストレスや抑うつなどの心理的な要因にも影響されるので、心のケアも忘れないこと。リラックスした生活を送ることや、家族や友人などの支えを得ることが大切です。また、必要であれば、心理カウンセリングや抗うつ薬なども利用すること。
- HSや線維筋痛症に対する有効な治療法はまだ確立されていませんが、一部の薬剤が効果を示す可能性があります。例えば、ガバペンチンやプレガバリンなどの抗てんかん薬は、神経系の過敏性を抑えて、HSや線維筋痛症の痛みを軽減することが報告されています。また、インフリキシマブやアダリムマブなどの生物学的製剤は、HSの炎症を抑えることができます。これらの薬剤は、サイトカインの働きを阻害することで、自然免疫系や神経系の異常を改善する可能性があります。ただし、これらの薬剤には、副作用や感染症のリスクもあるので、医師の指示に従って使用することが必要です。
まとめ
この記事では、化膿性汗腺炎(HS)で線維筋痛症になる可能性が高いことが判明したという最新の研究について紹介しました。HS患者は、一般人に比べて約4倍もの確率で全身性の慢性的な広範囲な筋肉や関節の疼痛を伴う神経系の障害である線維筋痛症になる可能性が高いことが分かりました。これは、HSと線維筋痛症で観察される自然免疫系や神経系の異常によるものだと考えられます。
HS患者は、以下のことに注意する必要があります。
- HSの重症度や疼痛スコアが高い場合は、特に線維筋痛症の可能性が高いので、自分の体の変化に敏感になること。全身の筋肉や関節に慢性的な広範囲な疼痛を感じたり、睡眠障害や疲労感などの他の症状がある場合は、医師に相談すること。
- HSと同時に関節リウマチやうつ病などの他の疾患を持っている場合は、それらの治療も適切に行うこと。これらのHSや線維筋痛症は、ストレスや抑うつなどの心理的な要因にも影響されるので、心のケアも忘れないこと。リラックスした生活を送ることや、家族や友人などの支えを得ることが大切です。また、必要であれば、心理カウンセリングや抗うつ薬なども利用すること。
- HSや線維筋痛症に対する有効な治療法はまだ確立されていませんが、一部の薬剤が効果を示す可能性があります。例えば、ガバペンチンやプレガバリンなどの抗てんかん薬は、神経系の過敏性を抑えて、HSや線維筋痛症の痛みを軽減することが報告されています。また、インフリキシマブやアダリムマブなどの生物学的製剤は、HSの炎症を抑えることができます。これらの薬剤は、サイトカインの働きを阻害することで、自然免疫系や神経系の異常を改善する可能性があります。ただし、これらの薬剤には、副作用や感染症のリスクもあるので、医師の指示に従って使用することが必要です。
この記事では、化膿性汗腺炎(HS)で線維筋痛症になる可能性が高いことを示した最新の研究について紹介しました。HS患者は、自分の体や心の変化に注意し、必要であれば医師に相談することが大切です。また、化膿性汗腺炎WikiやSNSなどで、他のHS患者と情報交換や交流を行うことも有用です。HS患者は一人ではありません。一緒に頑張りましょう。
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